最終追記:2018年02月27日更新
「棟梁と学ぶ家のこと」で紹介している「大黒柱と欅(けやき)の話」や「大黒柱の値段」。意外に大黒柱について興味を持たれている方が多いようです。さらに突っ込んで「大黒柱」について解説してほしいとのお声を多数いただきましたので今回はながら・加藤建築の棟梁が知っているたくさんの「大黒柱のこと」をご紹介したいと思います。大黒柱にも諸説あり、三河地方独特の情報もあるかもしれませんが、参考にしてください。
大黒柱とは
最も多い疑問ですね。一般的に「大黒柱」は『家(やチームなど)の中心で支える人』を指します。家庭では主に「お父さん」を指します。語源はもちろん、日本の伝統的な建築からだと考えられ、太ければ太いほど立派な家だと評価されました。
そんな理由から大黒柱が重要であることは理解でき、日本家屋ももちろん「大黒柱」を基準に骨組や構造体が組み上げられていきます。
そんな重要なはずの大黒柱ですが…残念ながら現在では「大黒柱」がほとんど見られなくなりました。
建築方法が多様化したことで、建物の構造が変わり、鉄筋コンクリートの住宅や壁や筋交いなどを入れることで大黒柱の必要がなくなったというのが主な理由です。
大黒柱の値段
人気コンテンツの一つ「棟梁と学ぶ家のこと~大黒柱の値段」の通り、産地・年輪の幅・赤身の多さ・伸び方・ねじれ・枝の多さなど、様々な条件により価格・値段は異なります。
おおよそで、
安い大黒柱で30万円ぐらい
高い大黒柱で300万円ぐらい
ではないかと思います。
欅(けやき)は癖が直りにくく、杉檜(すぎひのき)は比較的直りやすいなどの様々な要素を含めて価値が決まってくることもあり、それ以上はあまり聞きませんがそれぞれの価値観もありますので300万円を超える大黒柱もないとは言えません。
本当にピンからキリなのです。
大黒柱として使えるようになるのに、欅(けやき)が100年ぐらい~に対し、檜(ひのき)は150年以上かかります、現存する欅(けやき)が最長で300年程度でないかと思われるのに対し、檜(ひのき)は200年ぐらいまでが一般的です。それ以上は御神木となり一般の木材として利用することはほとんどないのです。金額が明確でないのは、ここにも理由があるです。
木材の知識を持ち仕入れることのできる目の利く大工であること、また仕入れた大黒柱を扱えるかどうかという点にもつながってくるのです。
※表示した金額もあくまで目安であり参考です。
大黒柱の役割
先記通り、
日本家屋に見る「大黒柱」は家のすべての基準。
長さが約6m程度ある大黒柱は大工の腕で墨打ちや鉋などで、大黒柱に仕上げられ、まっすぐ天に向かって土台から垂直に立てられます。この大黒柱を基準に梁や棟、通し柱が組み上げられていきます。この「大黒柱」を基準に家の隅々のいろいろな直角と垂直が出されていくのです。
そして大黒柱の最も重要な役目は屋根の荷重を支えること、屋根組の中桁を受け止めて大黒柱自体も上からの荷重でしっかり止まる。そんな上からの荷重を支えつつ、横からの揺れへの強度をつける胴差しや差し鴨居などを受け止め、通し柱や筋交いなども加わり、すべての柱や梁、棟が力を受け合いながら耐震性を持たせることを実現しています。
文字通り、大黒柱を中心に家全体が絶妙なバランスで建っているのです。
ながら・加藤建築の根本は『建物は基礎と骨組』
これが、日本家屋の真髄です。
ながら・加藤建築では、夫婦の力をあわせて素晴らしい家庭を築いていただきたいとの願いを込めて「大黒柱」と「女大黒」を対で立てます。この2本で屋根を支えて日本家屋ならではの構造を活かし、現代の一般的な工法にも引けを取らない、いや、それ以上の耐震性を持たせるのです。何より日本の風土を知っている「日本家屋」ならではの知恵や技術がこの大黒柱にはあると言っても過言ではないのです。
おおよそ、
床面積40坪位で「8寸の大黒柱」
「6寸の女大黒」「5寸の通し柱」
床面積80坪位ならば「1尺の大黒柱」
「8寸の女大黒」「6寸の通し柱」
がバランスの良い組み合わせだと考えています。
大きければ大きいほど、もちろん見た目の迫力はありますが、家に対して「分不相応な大黒柱」は機能こそは同じですが邪魔なだけで好まれない…「図体や態度が大きすぎるお父さん」はいかがでしょうか?
家庭もやはり同じですよね。
【棟梁コラム その1】大黒柱が減ったもう一つの真実
大黒柱の一般的な長さは6m。この長さの大黒柱を立てた時、上と下に出た1㎜。この誤差が起こすことを想像できますか?大きな建築面積なればなるほどこの誤差が隅にいくにつれて大きくなり工事が終わった時点で「台形の家」になるのです、つまり1㎜の誤差が生んだ「歪んだ家」になるのです。
正しい技術を持つ大工はこの地元でも数人しかいないと思います。悲しいことですが、全国的に見てもそれは同じこと、大黒柱を立てられる大工がいないくなっているのですから当然「大黒柱のない家」が一般的になってしまったということなのです。
大黒柱になる木
先にもご紹介した通り、ながら加藤建築では「欅(けやき)」もしくは「檜(ひのき)」を多く使います。欅(けやき)の柱なら100年以上~、檜(ひのき)ならば150年~が目安になります。これらの大黒柱候補生の木も自然に(野放し)で育ったものは、実はほぼ使い物にならないのです。
欅(けやき)は広葉樹で木の途中から木が分かれ、それぞれの伸びた先で枝を分け、葉をつけます。実はこの分かれ目になるまでの幹しか柱にできないのです。その木が使えるかどうかはそこまでの成長にあります、周りに干渉されないような配慮をし育てる必要があるのです。
沢の近くの木々はよく育つが色が悪い、風の強いところではそれに逆らうように木が曲がって育ちますし、日照条件などにも左右され、ねじれてしまう、生育環境も木の成長に大きな影響を与えているのです。そんないろいろな条件で育った木々の中から厳選されたものだけが日本家屋の「大黒柱」として使われるのです。今、植樹しても大黒柱として使えるようになる保証はなく、使えたとしても100年以上先なのです。
または、癖の直りやすい檜(ひのき)は、針葉樹で途中の幹から枝が伸び、その先に葉をつけます。上に伸びれば伸びるほど、横に伸びる枝の数は増え、下の枝には日が当たらなくなります、すると先に出た枝は枯れていきます。その枯れ枝の跡は長年の間に、年輪の中に残り、大黒柱としての価値を下げていくのです。そのためにも人の手を入れ「枝打ち」などを行い、大黒柱になるような木を育てる必要があるのです。
沢の近くの木々はよく育つが色が悪い、風の強いところではそれに逆らうように木が曲がって育ちますし、日照条件などにも左右され、ねじれてしまう、生育環境も木の成長に大きな影響を与えているのです。
そんないろいろな条件で育った木々の中から厳選されたものだけが
日本家屋の「大黒柱」として使われるのです。
今、植樹しても大黒柱として使えるようになる保証はなく、使えたとしても100年以上先なのです。
【棟梁コラム その2】木の成分のほとんどは“水”
木は呼吸をするとよく言いますが、実際は水分を吸収、排出しているというのが正解です。現在、市場に出回る木材の8~9割、大黒柱も例外ではなく「機械乾燥材」と言われるものです。含水率を15%~30%にするため機械乾燥を施し、流通されています。ただ、無理やり機械で乾燥するので、しばらくすると含水率は少し戻ります。(水分を飛ばすことで流通コストがさがるなどのメリットがあるので仕方ないのです。)
また、「夏の木は伐らない」という常識をご存知ですか?木材として使う場合は先記のとおり、木の中の水分量はできるだけ少ない方が乾燥しやすいのはご理解していただけたと思います、そうなのです、夏の木は夏目と言われ「ぐんぐんと栄養を取り込む成長中で木の中にたくさんの水分や養分をたっぷり含んでいる状態」です。反対に冬目は「しまり」があり比較的、乾燥しています。
木材になる木は12月~1月に伐るので夏場の8月は木材業界は木がなく、忙しくないというのが昔からの常識なのです。しかし、木材の流通も変化したこともあって機械乾燥材が主流になりました。そんな現在だからこそ、木の癖があることを知って使うことが必要だと思います。
ながら加藤建築ではどちらの木材もできる限り仕入れてからさらに「自然乾燥」させています。敷地のあらゆる場所に木材が乾燥させている大工も地元でも何人かしかいないのも事実なのです。
大黒柱ができるまで
さまざまな状態で育ち、伐採された木は「市場」もしくは「製材屋」に持ち込まれます。乾燥や製材された木材、伐採された状態に近い木材などで市場に出回ります。どちらかで購入した材料を手元に運び、
「背割」して3年以上寝かせます
というのも木の持つ癖(先記のような様々な環境によってできる木それぞれの特性)を出し切らせるまでは使わない方がいいからです。3年以上で出た癖や特性を見極め、適材適所に木材を使っていくのです。
家の基準になる重要な大黒柱が癖を出して曲がっていったら、また曲がって立ってしまったら…考えると本当に怖いことなのです。
自然乾燥の基準は「1寸1年」と言われ、
大黒柱の場合、最低でも3年。
長いものは15年以上になる「大黒柱候補生」もいます。出番が来たら墨打ちで水平を取り製材、できるかぎりきれいにと心を込めて表面を鉋をかけて仕上げていきます。大黒柱に艶が出ることも「自然乾燥」にこだわる、ながら・加藤建築ならではの技術の証なのです。